不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第4章 所要資金の調達方法 4-3

3. 所要資金の調達

 前項において、所要資金の概要と各項目ごとの目途や留意点などを説明しました。本項では、所要資金の調達について説明します。

(1) 自己資金
A. 金銭

 自己の貯蓄などを投入します。しかし不測の事態に備えて一定の手元資金は必要であるから、どこまで投入するかを慎重に検討すべきです。また金融商品で運用している場合、所要資金の必要時期に合わせて、換金することになります。

B. 所有地・所有不動産の資金化(流動化)

a. 所有地の一部売却
 計画地以外の不動産を処分して、この代金を所要資金に充てる場合です。将来を視野に入れた資産管理の観点から、売却対象物件の選定を行うことが重要です。また、不動産譲渡所得に対する課税関係を勘案して、買換えの特例などの活用も検討し、効率のよい時期、方法を選択する必要があります。
b. 等価交換による調達
 等価交換とは、基本的に、計画地の一部を売却しその代金を事業化建物の購入資金に充当するものです。等価交換では、借入が大幅に軽減(あるいは不要)となります。
c. 固定資産の交換による事業適地の確保
 固定資産の交換については、一定の条件を満たせば税法上の特例措置が受けられ、納税額を抑えることができます。交換によって借地権の整理等を行い、分散していた貸地を一体の有効利用適地とすることも可能です。
d. 所有不動産の証券化による調達
 近年急速に拡大しつつあるのが、不動産の流動化・証券化による資金調達です。流動化・証券化のための器となる法人を設立し、ここに対象不動産を売却して証券化を行う方法です。

(2) 礼金

 礼金は、住居系の賃貸借において契約時に借家人が支払う返還義務を負わない一時金であり、一般には賃貸借契約締結時に受け入れるので所要資金に充当することができ、資金調達の一手段となります。賃料の2か月分が標準的と考えられるが、地域の慣行や賃貸借の需給関係によって様々です。

(3) 敷金・保証金

 敷金・保証金は、賃貸借契約に伴って賃借人から受け入れる一時金で、基本的に将来賃借人に返還される預り金です。

A. 敷金

 敷金は、賃料の滞納などがあった場合に賃料として充当され、また賃借人には賃貸借終了時に借家を原状回復して明渡す義務があるから、賃貸人は、この補修工事代金(原状回復のためのリフォーム工事など)相当分を敷金から差し引いて、残りを返還するのが通例となっています。

B. 保証金

a. 中途解約の場合、賃貸人は保証金から中途解約料を差し引いて賃借人に返還します(中途解約料の計算方法は別途条項を設定、返還は据置期間を経た後)。
b. 賃借人の保証金返還債権の譲渡や担保設定の原則禁止の条項が定められることが多いです(銀行などへの質入れについては賃貸人の承諾を必要とする場合がある)。

(4) 建設協力金
A. 建設協力金による事業

 不動産有効利用事業の建物建設に当たって、予め出店を予定して賃貸借予約契約を締結したテナントを事業協力者として、このテナントから建物建設費の全部又は一部(過半部分置する場合が多い)建設協力金として収受し、これにより所要資金の調達を行う方法です。通常、銀行借り入れに比べて元本返済方法や金利など有利な条件で調達できるケースが多いです。
 テナントが建設協力金を貸出す場合、対象土地・建物に抵当権を設定するのが一般的です。また、建設協力金の金額、返済条件は、対象不動産の賃貸借の賃料条件と関連して調整されます。

B. 建設協力金による事業の留意点

 建設協力金による事業の留意点としては、次の点が挙げられます。
a. 建設期間中におけるテナントの出店取消へのリスク・ヘッジ
テナントは、その業況の変化等によって、一度合意していた出店を取消す場合があり得ます。建設中の建物は、そのテナントのために独自の設計・仕様となっており、他に転用することが困難なケースが多いです。事業主としては、事業化のために出費した費用や建物を除却して更地とするための費用等をテナントから回収できるように、出店取消しの際のペナルティ条項を契約に盛り込み、リスクを回避する必要があります。
b. 賃貸期間中のテナント中途退去へのリスク・ヘッジ
建設協力金に関する契約は、賃貸借契約とは別の、金銭消費貸借契約とされています(判例)。
賃貸期間中(賃貸借契約期間は20年程度が標準的)にテナントが退去した場合には、賃料収入が途絶えて、建設協力金の返還債務が残ることになります。更に、建物の転用が困難な場合が多く、別のテナントに賃貸するためには、大規模な改修工事を伴うことが予想されます。従って、テナントが自己都合で賃貸借契約を中途解除する場合に、応分の違約金を確保できるような条項を契約に定め、中途退去のリスクを回避する必要があります。
c. 建設協力金の返済源資の確保
建設協力金の返済は、賃貸事業の10年経過頃から開始されることが多いです。
事業が開始されて10年程度を経過すると、設備の取替えなどの出費や事業の黒字化による税負担増により資金繰りが厳しくなることも予想されるので、建設協力金の返済源資を内部留保しておく必要があります。
d. 建設工事の負担区分の明確化による所要資金の把握
建設協力金による事業は、通常、店舗をテナントとする場合に採用されます。この場合、将来の改修工事の負担やお互いの建物管理責任の範囲などが問題となるので、事業主が負担する建物の本体・設備部分と、テナントが負担する内装・装置部分とを予め明確に区分しておく必要があります。