不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第6章 企画提案書 6-3

D. 事業の基本的な考え方

 ここでは、何をピックアップして企画提案書に記載すべきかを説明します。
a. 周辺市場分析
ア. 住居系
① 周辺市場の概況
 その地域はどういう特性を持つ地域なのか、伸びる地域か、発展する可能性のない地域か、地域に住む人たちの特徴、住宅地の環境のレベル等その地域の概ねの状況についてポイントを整理して記載します。
② 周辺市場の規模とその推移
 計画地の周辺では過去1年~2年間でどの程度の量が供給されているのか、その推移をできるだけ表やグラフを使って説明します。分析のレベルとしては、ファミリータイプとワンルームタイプ別、2DK、3LDK、4LDKなど間取り別、できれば面積別等のレベルまで表示した方が、計画の説明の際に依頼者の理解を得やすいです。
③ 周辺市場の賃料動向
 上記の量での捉え方に対し、価格で捉えた推移を見ます。比較の際は、共益費込か別かを確認し同じ基準で比較します。また、募集価格と成約価格が異なる場合があるので、注意する必要があります。
 なお賃貸マンションの企画の場合でも、分譲マンションの価格の推移を捉えておく必要があります。分譲マンションの一部は賃貸用市場に出され、特にワンルームマンションはほとんど賃貸用といえます。
④ 稼働状況の説明
 稼働率についてのデータを集めるのは大変です。
 従って、最近募集したばかりのもの、地域で目立つもの、規模的に同じもの、一番影響力のある建物、等に対象を絞って、ヒアリングの上でまとめることになります。 稼働率の低い事例が多かったり、急な落ち込みを示す事例が多い時は要注意です。賃料設定の見直しのみならず、事業化の時期の延期を提案する場面もあり得ることになります。
⑤ 今後の動向
 企画提案の対象事項は、直ちに実施段階に入った場合でも、建物が完成して募集を始めるのは1~2年後です。従って、現状分析だけでなく今後の動向が重要となります。現在建築中のものは、いつ、どの位の賃料で供給されるのか、業者からのヒアリング等で確認します。
 また、お知らせ看板や、役所で建築確認申請などを閲覧して調べ、今後1~2年の間に建築予定の建物は量的にどの位あるかを予想します。
イ. 事務所系
 事務所系の周辺分析も、基本的には住宅と同様の項目を分析して記載します。
 事務所ビル特有の注意点として次の点が挙げられます。
① 事務所ビルの場合、1フロアの面積の大小によって賃料が全く異なります。従って建設しようとするビルの規模と同一規模のものを選んで分析します。
② 賃料は、募集賃料が成約賃料かを見分け、成約賃料の分析の対象としなければ正確なデータにはなりません。またフリーレントを条件にして成約している場合、その賃料のままでは参考事例とならないので契約の内容も確かめます。 
③ 契約面積は、ネット貸し(共用部分を除く)か、グロス貸し(共用部分を含む)か、によって比較する賃料が全く異なります。中型ビル以上になると、1棟貸し以外はグロス貸しはほとんどないが、規模が少なくなるほどグロス貸しは多くなります。従って、募集面で確認する等、同じ条件にして比較します。
④ 築年数やインテリジェント対応かどうかなど、設備によっても賃料が異なるので、比較するビルを選ぶ際は設備も確認します。
   また、事務所ビルの場合は借り手の多くが企業になるが、最近の傾向として貸し手市場から借りて市場への変化に加え、不況が長引く中、企業の見る目が厳しくなっており、借り手の動向にも注意を払う必要があります。
ウ. 店舗系
 店舗系の場合は、住居系、事務所系と異なり、商圏の設定、売上調査等を行い市場特性を把握します。同一需給圏の調査も必要になります。
 以下に、企画提案書への記載項目の例を挙げたが、店舗の規模によって記載内容は異なります。
① 周辺市場の業態
② 商圏・売上予測について
③ 競合店舗の状況
④ 平均所得・消費動向
⑤ 動線調査、その他
b. 立地の評価
 立地の評価には次の二つの側面があります。
ア. 土地の評価
 有効利用の場合でも、できれば土地の評価を企画提案書に盛り込んでおきます。
 建設資金を銀行等から借入れる場合や、等価交換の手法による事業においてディベロッパーとの事業比率を決める場合等に、土地の評価が必要となります。
 具体的な評価については、公示価格、基準地価格、相続税路線価等の公的資料や収益還元価格、取引事例からの比準価格などを具体的に提示し、できればその計算根拠まで示します。特に公的価格は、データが半年から1年前のものによっているため、企画提案書提出時点までの変動率(時点修正)を施す必要があります。
イ. 土地の適正用途
 調査結果の分析に基づいて、当該土地の最適用地を絞り込むこととなります。
c. 計画の基本コンセプト
 立地評価と周辺市場の分析結果、今後の市場環境の変化への対応及び事業主ニーズなどを基に、想定するターゲットや建物計画の概要について具体的に提案します。
 コンセプトとは「概念」であり、企画提案書作成のプロセスにおける「企画の基本的考え方」あるいは「企画の基本的方向付け」です。
 コンセプトは、企画の全体像を的確にまとめ、企画の狙いを強くアピールできることが大切です。簡潔な表現で企画の方向性を定めて、具体的な企画内容は別の項目を設けて説明した方がよいです。
 依頼者から用途を指定している場合、原則としては、指定された用途を優先して検討します。
 ただ、依頼者の希望している用途での事業の成立が明らかに難しい場合には、調査結果とその分析内容について、ページを割いて不可能な理由を述べ、これに代わる提案をすべきです。依頼者のニーズを立地からの判定、市場性からの判定に優先させてはなりません。
 一方で、依頼者が希望する用途も成立可能であり、コンサルティングの検討結果としても異なる提案可能な場合には、複数の提案を出し、それぞれの案の優れている点だけでなく、問題点やリスクについても明確に指摘することです。

E. 建物建設

a. 計画の前提
ア. プラン及び設計の前提
 先に設定したコンセプトに基づき、プランニングの考え方、設計上や前提条件を、具体的に説明します。
 例えば、住宅の場合には次の点が挙げられます。
① 1戸当たりの面積、タイプはどの程度にし、それぞれの構成比率はどうするか
② 配棟計画は南向きを優先するのか、容積率消化を優先するのか
③ 住戸の開口部の最低基準をどうするか、階高の基準はどうか
④ 駐車場の設置率はどの程度を前提にするか
⑤ 建物グレード、設備はどの程度のレベルにするか
 なお、技術的な設計の前提条件については、特殊な工法を使うことがなければ詳細に述べる必要はありません。
イ. 設計上の問題点
 設計業務を企画設計、基本設計、実施設計に分けると、企画提案書の段階は企画設計です。従って、幾つかの前提条件を置いた設計であり、問題点を予め具体的に挙げて、事業収支に与える影響や事業執行段階での問題の所在をはっきりさせておくことが重要となります。
 例えば、次の項目が挙げられます。
① 境界確定未了のため、確定後、建物ボリューム変更の可能性があること。
② 測量未了のため、確定後、日影規制の影響が変わり、建物ボリュームに変更の可能性があること。
③ 道路査定未了のため、確定後、斜線制限の範囲に影響を与え、建物ボリュームに変更の可能性があること。
④ 地下埋設物については、想定していないこと。また地盤については、近隣のデータによること。
⑤ 開発許可に関する関係官庁との協議が未了であること。
⑥ 北側の住宅に対する日照の影響に伴う交渉についてはスケジュールに含んでいないこと。
b. 計画の概要
 建物計画について、パースや図面を使って説明します。できればカラーパースや平面図の専有部分と共用部分の色分けなども工夫します。
 また、依頼者に完成後の建物のグレードやレベルを理解してもらうため、主要な仕上げについては説明しておく必要があります。これらは、建築費や事業収支計画にも影響することになります。
 原則として次のような図面を提示する必要があります。
① 計画概要・面積表
② イメージパース
③ 敷地図・配置図
④ 各階平面図
⑤ 間取図
⑥ 断面図
⑦ 主要仕上表

F.概算事業収支計画表

 企画提案書の中で、この事業収支計画は最も重要な部分です。企画段階のため不確定部分もあるので概算としているが、事業収支計画の内容によって企画の成否が決定してしまいます。

G. 今後の検討課題

 企画提案書の本文中には触れられていないが、事業推進上重要な項目について記載します。主として実施段階にわたる事項が多いです。
 主な項目として次のものが挙げられます。
① 資金調達の方法
② 工事スケジュール
③ 許認可・近隣折衝
④ 設計・施工実施計画
⑤ 管理・運営方法

3. 作成したのチェックポイント

 作成した企画提案書を依頼者に提案する前に、もう一度その内容をチェックします。
 チェックするポイントは、次の二つです。
① コンサルティング業務委託契約書記載の業務範囲との整合性
② 企画提案書自体の全体の整合性

(1) コンサルティング業務委託契約書記載の業務範囲と整合性

 企画提案書はコンサルティング業務委託契約に基づき、業務の範囲、提出期限、コンサルティング報酬等を約束して作成するものです。従って、特に業務範囲の内容を網羅しているかどうか、依頼の趣旨に沿っているかどうかについて、作成がすべて終わった時点で改めて確認する必要があります。
 なお業務委託契約の際、「その他これに付随する一切の事項」等のあいまいな表現は避け、業務を具体的に記載しておくことがトラブルを防ぐポイントです。

(2) 企画提案書自体の全体の整合性

 最初から、一つ一つチェックしながら確認します。チェックポイントの例としては、次のような項目が挙げられます。
① 説明の流れに無理がないか。論理性、現実性に欠けていないか。
② 内容に説得力はあるか。的確な分析結果に基づく内容になっているか。
③ 相手の視点に立って作られているか。一方的に自分の考えだけを押し付けていないか。
④ 不用意な表現はないか。