不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第2章 調査 2-1

1. 調査の手順

 不動産の有効利用における調査は、一般的には相当広い範囲にわたり作業量も膨大となるが、一方では極めて限られた時間的制約の中で行わなければならにことが多いです。従って基本的には、調査の目的・方法を一定の方向と範囲に絞りこんで効率的に進めることが実務上は非常に重要となり、そのためには原則として次の手順に沿って行う必要があります。
 更に調査に当たっては、個々のあらゆる調査が、次の行程の事業構想策定や企画提案書の内容と密接に連動している作業であることを、常に念頭に置きながら進めることが大切です。
[調査の手順]
①仮説の設定→②物件調査→③市場調査(→④事業構想の策定→⑤企画提案書)

2. 仮説の設定
(1) 仮説の概要
A. 用途の系統

 対象地の最有効使用について法規面や市場動向を詳細に検証していない段階であるが、見積書作成に先立つ概要調査で現地を確認しており、当該地域の地域的特徴や対象地周辺の状況に基づいて、次の用途の系統から1~2種類を選んで仮説を設定します。
① 住居系
② 事務所系
③ 店舗系
④ 余暇・宿泊系
⑤ その他

B. 具体的な用途・業種

可能であれば前項の「用途の系統」を更に一歩進めて、例えば下記のような具体的用途や業種について1~2種類を選び、仮説を設定します。
① 住居系 ・・・・・・・・・・a. 賃貸マンション
                b. アパート
                c. 社員寮・学生会館
② 事務所系・・・・・・・・・a. 一般事務所
                b. 貸ホール・貸スタジオ
                c. 専門学校
③ 店舗系・・・・・・・・・・ a. 小型スーパー
                b. コンビニエンスストア
                c. レストラン
                d. 飲酒店
                e. 小売専門店
④ 余暇・宿泊系・・・・・・a. アスレチッククラブ
                b. カルチャーセンター
                c. ホテル(ビジネスホテル)

(2) 地図の作成

 調査の事前準備を兼ねて対象地を含めた広域のエリアを、住宅地図の貼り合わせ等により大判の1枚の地図とし、対象地を含む地域一帯を上空から俯瞰する形の資料として作成します。この資料は、対象地を含めた一定の地域において形成されている市場の現状把握と対象地に関する適正用途イメージ作りのために使用します。
 なお、住宅地図を使って作り上げたイメージ、すなわち対象地の適正用途に関する仮説について、実際に現地で確認し、あるいは必要に応じ修正を行います。

3. 物件調査
(1) 調査項目

 不動産の有効利用における物件調査の項目は次のとおりです。

A. 物件特性

 ここでの調査は、①企画提案書への対象地の概要の記載②建物計画及び③事業構想、特に適正用途の判定(第3章「事業構想の策定」の項で説明する)と密接に関連しています。
 土地の面積、敷地形状、道路幅員、接道状況は建物計画に様々な影響を与えるものであり、道路幅員は容積率に影響を及ぼし、地盤高は日影規制に関係し、接道状況は事務所・店舗では重要な要因となります。同じ面積の土地であっても間口と奥行の関係が異なればテナント(入居者)誘致の上で優劣の差が生じ、隣地の利用状況によっては、将来にわたって日照や眺望の確保されることが期待できる場合もあります。
a. 地積
b. 敷地形状
c. 道路幅員
d. 接道状況
e. 地盤高
f. 日照
g. 隣接地の状況 等

B. 地域特性

 人口・所得等はその地域が発展しつつある地域が成熟した地域か、住民の富裕度・購買力など、地域の特徴を大きく把握する上で重要な項目であり、交通・施設・街並みなど他の調査項目も密接に相互関係を有しています。地域特性を見る場合は、計画地がいかなる条件を持っているか、客観的かつ冷静な視点で進めることが大切であり、同時に地域特性は変化し得るものという柔軟な視点も必要です。
a. 人口・世帯・所得・事業所など
b. 交通
c. 周辺施設・利便施設
d. 街並み
e. 自然環境
f. 都市計画事業 等

C. 法的規制

 法的な制限の調査は、都市計画等の資料だけでなく、所轄官庁の担当部署における調査を必ず励行しなければなりません。
a. 都市計画
b. 建築規制
c. 条例
d. 指導要綱 等

D. 権利関係

 権利関係については登記簿調査が中心となるが、重要なことは土地所有者、借地権者、借家権者など関係当事者からのヒアリングと裏付け書類による確認を可能な限り行うことです。
a. 単独所有
b. 共有
c. 底地
d. 借地
e. 借家 等

E. 税金関係

 通常、個人の場合は、相続税対策と固定資産税・都市計画税が土地の有効利用の契機となることが多いです。
 路線価は毎年、固定資産税評価額は3年ごとに変動し、事業計画において設定が難しい部分であるため、将来の予測を行うためには過去数年間の変動を把握する必要があります。
a. 路線価
b. 固定尾資産税評価額 等

F. 対象地の価格

 計画地を借入の担保とする場合、等価交換の手法を採用する場合及び一部売却により所要資金を捻出する場合などには、対象地の評価額が必要となります。また、依頼者も強い関心を持っているケースが多いので、予め調査の上で価格を査定しておきます。

(2) 調査の留意点

 物件調査は後記の「事業構想の策定(適正用途の判定)」における次の各項目と連動するため、設定した仮説の用途に関係する事項については、常に念頭においた上で調査を進める必要があります。
〔敷地条件〕
① 敷地面積は仮説の施設用地として妥当か
② 用途地域の制限上、仮説の用途は可能か
③ 妥当な床面積がとれるか
〔立地条件〕
① 最寄駅までの距離・所要時間はどうか
② 都心・ターミナル駅との関係はどうか
③ 前面道路の歩行者通行量はどうか、歩行者動線との関係はどうか
④ 車両通行量はどうか
⑤ 仮説の施設は隣接地イメージと合っているか
⑥ 集客力のある施設はあるか、客層はどうか
〔環境条件〕
   競争状況はどうか