不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第2章 調査 2-2

4. 市場調査

 市場調査は、対象地において仮説に基づく用途の建物を建築し、賃貸事業を行うことを前提に、主として①需給動向②賃貸条件(賃料水準を中心)について情報を収集し分析します。

(1) 住居系の調査

 情報誌と業者ヒアリングを中心にして情報を収集します。なお、リストラや周辺環境の変化等により、工場や企業事務所の移転が予定されていたり、大学なども、より広いキャンパスや恵まれた教育環境を求めて移転する例があります。企業の従業員や学生を対象とする賃貸動向は、地域によっては大きな影響があるので、こらのウェイトが高い地域については、その移転情報に注意しておく必要があります。

A. 賃貸情報誌の活用

 賃貸情報が地域・沿線別などに整理されているのでこれを活用します。なお、次の点に留意しなければなりません。
① 築年数による、建築の傷みや、設備内容等によりかなりのバラツキがあるので、新規賃料設定のためには数値の修正が必要になります。
② 賃貸需要は転勤、入学などのシーズンに偏った需給が発生するため、季節的な要因もあるが、情報誌に毎号同じ物件が載っているような場合は、市場性から見て、賃料、環境、建物等のいずれかに問題があるものとして、データ処理の際に注意が必要です。
③ 短期間で成約が見込める物件につては、地元不動産業者が広告を行う前に契約済となる例が多いため、情報誌で把握した賃料相場よりやや低めの賃料が実際の相場と見ておいた方が安全です。

B. 地元業者へのヒアリング

 賃貸住宅については地元の不動産業者が最も的確な情報を持ち、需給関係を把握しているといえます。
 周辺の地域・立地分析を兼ねて現地周辺を回り、地元業者へのヒアリングを行うことが大切であるが、業者によっては物件の種類や地域などに偏りがあることを考慮しておく必要があります。

(2) 事務所系の調査
A. 情報誌の活用

 事務所賃料の推移や調査情報は、専門誌や賃貸媒介業者の発行する資料等から入手が可能です。また、ホームページに賃貸情報が掲載されているので、これも活用します。

B. 新聞情報の活用

 事務所の賃貸条件や需給関係は、住宅に比べ、より直接的に経済の状況を反映するため、経済専門誌のみならず一般紙においても取り上げられることが多いです。日頃から情報の収集整理を行っておくことが必要です。
 なお、業界紙も役立つ情報が多いので、発行元に問い合わせることも必要です。

C. 賃貸媒介業者へのヒアリング

 新規ビルの供給やテナントの入れ替えがない等により新規賃料での募集事例が乏しい場合や、契約賃料が不明の場合等があり、実際の賃料水準については賃貸媒介を行っている業者から情報を入手せざるを得ません。
 そのためには日頃の業務において、賃貸媒介業者との間に情報を交換できる関係を築いておく必要があります。

D. 地域特性の把握

 一般に、事務所ビルはワンフロア660㎡以上の大型ビルの方が需要が強く、賃料も高いとされています。しかし地方都市等で本社や大規模な支社・支店がほとんどなく、100㎡前後の営業所が主流となるような地域においては、都市景観的な見地も含め、大都市とは異なる最も適した規模のビルがあり得ることも考慮しなければなりません。

 なお、店舗系の市場調査も、情報誌・媒介業者からの情報収集や地域特性の把握など基本的な事項については事務所系と同様であるが、業種や規模によって調査項目が異なることに留意する必要があります。

(3) 需給動向・賃貸条件の調査・分析
A. 賃貸供給状況

 計画地周辺あるいは立地特性の類似する他の地域における賃貸物件の供給状況を分析の上、企画に反映させて行きます。
 供給状況分析に当たって、最寄駅又は計画地を中心とした新規供給物件・既存の供給物件の分布状況及びその概要を調査し、調査対象地における傾向を分析します。項目としては物件の位置、駅からの距離、規模、竣工時期、グレード、テナント入居状況、付帯施設(駐車場など)が挙げられます。住居系の場合は、これに戸数・間取りなどが加わります。可能であれば賃料等の制約条件も併せて調査・分析する。調査・分析結果は、企画の際の基礎データとなるため各所からの聞き取り内容も含めて項目ごとにまとめておきます。

B. 賃貸需要の予測

 需要状況については供給状況とその成約率・成約期間・空室率等からも読み取れるが、成熟している地域については、人口動態や競合者の供給見込等についても総合的な調査を行います。重要な点は、需要の少ない物件について、その原因(間取り・グレード・賃料・環境等)を調査することです。
 また、事務所系・店舗系の場合は、テナントの移転(転出・転入)の事例があればその理由を調査します。

C. 適正な賃貸条件

 対象とした市場における同種・同等・同類型あるいは当該不動産と代替可能な賃貸不動産の「空室率、成約・解約の状況、新規賃貸条件、継続賃料」等の動向について市場調査と分析を行い、賃貸借の事例を中心に、当該不動産の適正な賃貸条件を設定します。

(4) 分譲市場の調査・分析

 銀行からの借入に伴う担保としての評価、等価交換の手法を採用する場合の分譲マンションの市場性の検討及び事業主が一部を売却するケース等を考慮して、マンションの分譲価格を調査・分析します。

A. 分譲供給状況

 分譲供給状況の調査・分析に当たっては、最寄駅あるいは計画地周辺の中古マンション・新築マンションの供給(成約)事例を参考にします。項目としては、賃貸供給状況の場合と同様、駅からの距離、規模、戸数、竣工時期(供給時期)、グレード、間取り、付帯施設(駐車場など)、成約価格(分譲価格)などが挙げられます。新築マンションの場合は、分譲中物件については契約率、「完売物件」については完売までの経過月数なども調査します。その調査結果を項目ごとに分析し、計画地におけるマンションの売却価格を検討します。

B. 分譲マンション需要予測

 分譲マンション市場全体の動向と併せて、計画地周辺への需要量、購入者属性(家族構成・所得水準など)、需要の多い物件・少ない物件、それぞれの概要(間取り、グレード、分譲価格など)及びその特色などを調査・分析します。

コンサルティングのポイント

 日本には様々な「不動産の価格」がります。不動産の流通市場での売出価格や成約価格、適正な地価の形成を図ることを目的として公表されている地価公示価格や基準地価格、税務上の課税価格を算定するための路線価や固定資産税評価額、不動産鑑定士が行う不動産評価額等、対象地は同じでも価格はいくつもあり、まさに1物7価?状態と言っても過言ではありません。
 通常の商品では考えられないことですが、不動産コンサルティングを行なう者としては、それぞれの意義や背景等のポイントを押さえておくことが大事です。このうち、不動産鑑定評価額とはどんなものなのか、ポイントをまとめてみました。
(不動産鑑定評価基準からの引用・抜粋)

(1) 不動産鑑定評価によって求める価格の種類

① 正常価格 市場性を有する不動産について、合理的な市場(需要者及び供給者が売り急ぎ、買い進み特別な動機によらないで行動する市場)で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいいます。
② 限定価格 市場が限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいいます。
(例)・借地権者による底地の取得・隣地不動産との併合を前提とした隣地の取得等
③ 特定価格 不動産の性格により一般的に取引の対象とならない不動産、又は依頼目的及び条件により、一般的な市場性を考慮することが適当でない不動産の経済価値を適正に表示する価格をいいます。
(例)・社会更生法により更正目的の財産の鑑定評価を行う場合
   ・担保としての安全性を考慮することが特に要請される場合

(2) 不動産鑑定評価の方式

鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式及び収益方式の3方式があります。
・原価方式は、不動産の再調達に要する費用に着手して(費用性)
・比較方式は、不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着手して(市場性)
・収益方式は、不動産から生み出される収益に着手して(収益性)

表にまとめると次のとおりです。
<評価及び賃料の評価方式>