不動産コンサルティング 

不動産コンサルティングの実務について

第6章 企画提案書 6-1

 この章では、これまで進めてきた作業を個別の案件にあてはめ、具体的に「企画提案書」を作成するための手順について説明します。
 第5章までは「企画提案書」作成に必要な知識の習得であり、本章はその成果をどうまとめるかの説明です。必要かつ十分な調査と分析に基づいて専門知識、経験を駆使し、依頼者に満足される企画提案書を作成しなければなりません。
 更に、提案する事業計画の形態・種類・資料・図面の種類・精度・数量及び作業内容・提案事項等が、依頼者との間で締結した業務委託契約の合意内容を満たしていることが必要です。
 この章では、コンサルティング業務委託契約に基づく成果物としての企画提案書について、その位置付け、基本構成から具体的な提案のポイントを説明します。
 なお、企画提案する際、一般的には「企画書」「計画書」「事業企画書」「提案書」その他様々な呼称が使われているが、本書では「企画提案書」で統一しています。

1. 諸作業を集大成した成果物「企画提案書」
(1) 企画提案書の位置付け

 依頼者にとっては、コンサルティングを依頼した後、ヒアリング、業務委託契約の説明や締結など何度もコンサルティング受託者と接触する機会はあるが、その力量については、企画提案書を受け取って始めて、助言や提案を文章でまとめた成果物という形で“報酬を支払うに足りる付加価値”を知ることになります。
 企画提案書の出来次第で、コンサルティング受託者に対する依頼者の評価が決まるといっても過言ではありません。
 当然のことながら、企画提案書作成には技能が不可欠です。情報収集力、情報分析力、構想力、事業性を見通す力、文章力、いずれも不断の努力にかかっています。企画提案書作成という業務は、“勘”と“努力”と“経験”という昔ながらの「足で稼ぐ仕事」から、いかに「頭を使った仕事」に転換できるかを求められているといえます。「いかに内容のある企画提案書を作成して、依頼者に満足してもらえるか」ということに対して、日頃からの十二分の努力・配慮が大切です。
 以下、そのポイントを説明します。

(2) 企画提案書作成のポイント

 企画提案書作成に当たっては、幾つかの基本的なポイントがあります。以下、主な点を挙げます。

A. わかりやすい企画提案書にする

a. 平易な表現を心がける
 企画提案書には、不動産、税務、法律等の専門用語を使いがちであるが、専門知識が少ない依頼者にとっては、日常の中で難しい言葉や用語に触れる機会が少ないです。企画提案書の読み手の立場になり、できるだけ理解しやすい言葉で表現すべきです。
b. ビジュアル性を重視する
 依頼者にとっては絵や、表、図、写真など視覚に訴える形で表現された方が分かりやすいです。また、カラーを使った方が見やすいです。
c. 適度な分量でまとめる
 整理した言葉で、適度な分量にまとめることも必要です。
d. 体裁にも気を配る
 常に本格的な製本とする必要はないが、少なくとも表紙は企画提案書の顔ともいえるので、ビニールカバーを使うなど内容にふさわしい体裁を整えます。
 また、依頼者が高齢者等の場合には企画提案書の文字を通常より大きくする、「です」調の柔らかい表現で文章を構成するなど、表現力の配慮も必要です。

B. 問題点をはっきりさせる

企画提案の段階では、通常、不確定な要素が多いです。
例えば、
・地積、境界等の確定未了
・金融機関などの抵当権者の意向調整
・借地人・借家人など他の利害関係人との調整
・建築する建物の正確なボリュームや有効率(レンタブル比)
・建築工事費などプロジェクトに係る様々な費用の内訳
・傾斜地や軟弱地盤での敷地造成費
・事業資金の実際の調達方法
・完成後の建物管理に係る諸費用
 このような不確定な要素については、コンサルティングを行う者の知識や経験を駆使して、誤差が少なくなるよう工夫することとなるが、企画提案の段階で前提条件(不確定要素)としてどんな事項があり、それが事業収支にどのような影響を与えるのか等について、企画提案書に明記します。

C. 依頼者がリスクについて判断できるように作成する

 リスクをどう見るかは最終的には依頼者が判断するものであり、依頼者自身がこの判断を下せるような企画提案書でなければなりません。

(3) 企画提案書作成の具体的な手順

 依頼者と業務委託契約を締結した後、企画提案書を具体的に作成する手順は、概ね次のとおりです。

A. 企画提案の方向を決める

 依頼者が企画提案を求める背景、目的、内容などを確認し、前提条件を整理して、予め企画提案の方向を決めておく必要があります。その上で土地の最有効利用を考え、企画提案をまとめます。

B. 仮説を立てる

 企画提案書を作成する作業の中で、この部分が最も重要です。通常は、限られた時間の制約の中での企画提案書の作成作業であり、当初の段階で活用後のイメージを持つことが大切です。
 仮説が市場にマッチしたものかどうか、調査のやり直しをしないで済むかどうかは、コンサルタントの経験や知識如何です。

C. 情報を集める

 立てた仮説に基づいて収集すべき情報の項目を整理し、それに沿って情報収集を行います。

D. 情報を分析する

 集めた情報から現状を読み取り、事業構想を練るための材料とする。ここでは情報を分析する能力が必要となります。
 更に他の材料が必要な場合など、何度か情報収集をし直すこともあり得ます。

E. 事業構想を練る

 仮説で想定した用途が成立する見込みとなれば、建物の概要、テナント構成や事業採算の前提条件等について検討を行い、事業計画の構想を練ります。

F. 企画提案書を作成する

 事業構想と業務委託契約で定めた業務内容等に基づいて具体的に作成します。最初から順次書いて行く方法や、先に結論を書いて最初に戻る書き方など、自分に合ったやり方でよい。パソコンを活用して、文章のみならず表やグラフを多用することも、心掛ける必要があります。